前回(第4回)の内容
今回(第5回)の内容
今回は、知財戦略に関わる分野の学習用の参考書籍・資料について、自分が使用したものを代表に、記載していきます。
前提・背景
日本は以前「技術大国 日本」と呼ばれていた時代がありました。 しかし、GAFAなど海外の巨大大手プラットフォーマー企業の台頭や、海外の大学・技術研究機関の大きな発展、国策としてスタートアップ企業家や研究者の育成に先進的な取り組みを行ってきたためか、現在では海外企業の活躍が目覚ましく、日本企業は技術・経済界含めて苦戦している状況が見て取れ、そうした記事や書籍をよく見かけるようになりました。
日本は技術大国でいられるのか 米国の特許登録トップ20に日本企業は3社のみ(1/2ページ) - イザ!
また、海外ではM&Aによる企業や研究機関の買収に非常に積極的ですが、日本ではまだまだ抵抗感があるようです。2022年7月~9月のクールでつい最近まで放送されたテレビドラマ「ユニコーンに乗って」は、まさに日本の教育問題をベースに、スタートアップIT企業がユニコーン企業に成長するために直面する技術課題、特許権利帰属・営業秘密管理問題、M&Aなども組み込まれていて、ある程度脚色されているフィクションとはいえ、IT企業の知財担当としても個人的にも、非常に面白いドラマでした。
日本としても産業界を発展させるために、知的財産に力を一層力を入れていく必要があり、経済産業省・特許庁として様々な取り組みを国策として行っています。 昨年発表されたコーポレートガバナンス・コード(CGC)の改訂が、その最たる例だと思います。
そうした背景もあると思いますが、知財検定1級では、そうした内容に関連する近年の取り組み・動向から出題される傾向が強いと思います。
まさに、コーポレートガバナンス・コードが知財検定1級の試験範囲に今年度試験から追加されています。
https://www.kentei-info-ip-edu.org/exam.html
出題傾向
知財戦略は、名前に「戦略」とある通り、通り一遍の学習ができる内容ではなく業界や技術分野、企業等がおかれている立場によって大きく変わり、戦略そのものは営業秘密にもかかわるため体系的な学習をするのが難しいように考えられます。しかし、前述のとおり国や特許庁が推進している政策等は公的に発表されており、内容を知っているかどうかで問題として問いやすいため、出題されやすい好適題材はある程度傾向があるように思えます。時事問題としての出題がされますので受験対策としても、そして実務的重要性のためにも、アンテナを張ってウォッチしておく必要があります。
出題されやすいと思われるテーマ
標準化技術
特許情報分析
IPランドスケープ
特許の群管理
オープンイノベーション
オープン&クローズ戦略
スタートアップ、中小企業、研究機関等の支援・減免制度
産官学連携
知財人材標準スキル(version2.0)
企業戦略・事業戦略・知財戦略の関係
経営デザインシート
コーポレートガバナンス・コード
知的財産の価値評価と資金調達のパターン
主なキーワードは上記の様に挙げることができますが、それなりに幅がありますし、それぞれ深く難しい内容を含んでいますので、根本的に理解をするのはなかなか大変かもしれません。 しかし、受験対策としては、重要なエッセンスを押さえておけば十分だと思います。
参考資料
知財戦略のススメ(日経BP社)
下町ロケットに登場する弁護士のモデルとなった、有名な鮫島先生の著書です。もはや教科書と呼んでもよいでしょう。 内容もわかりやすく、非常に良書だと思っています。
IPePlatの「ビジネス」「その他」の分類で、上記に該当するコンテンツ
サイトにアクセスしてコンテンツを見てもらえればわかると思いますが、かなり共通するテーマのタイトルが並んでいます。 自分はすべて見切れませんでしたが、おそらくかなり参考になるはずです。
知的財産技能士会の特典
3級・2級の合格者は年会費1万円で有料会員となることで、過去問だけでなく、刊行物・論稿が読めます。 やや専門的だと思いますが、近年の知財動向をトピックとして扱ってますので、会員の方は活用して損はないと思います。
- IPジャーナル IPジャーナル|一般財団法人 知的財産研究教育財団
会員でなくても有料で購入もできますが、会員は無料で全号ダウンロードできるようになりました。
こちらはさらに専門的ですが、最新の調査研究報告などが読めます。
無料セミナーの案内や、技能士会員の交流会の参加者募集等があります。 コロナ禍のため、Zoom等での開催も増えて、遠隔地の方でも参加しやすくなったと思います。 交流会は1度参加したことがあり、1級3冠(特許専門業務、コンテンツ専門業務、ブランド業務)達成者の体験談や、受験者のお互いの苦労話などざっくばらんに話すことができました。
こちらは会員でなくても多分見れると思います。技能士会員の推薦書籍です。 私が読めていない内容もありますので、興味がある方はぜひ参考にしてみてください。
戦略的な知的財産戦略に向けて:技術力を高めるために:知財戦略事例集(特許庁/経済産業省)
honto.jp 様々な企業等の知財担当者の経験談が記載されており実務的に参考になると思いますが、刊行が古いのと内容が膨大なので、試験対策としては企業の事例ではなく、本文として記載されているまとめの部分を重点的にみるとよいと思います。過去問で頻出の一冊です。
知的財産戦略(ダイヤモンド社)、キヤノン特許部隊(光文社新書)
元キヤノン専務知財担当者・弁理士の丸島儀一氏の著書です。キヤノンは現在も技術的にも知財戦略的にも第一線で活躍する企業集団であり、その知的財産部隊も精鋭ぞろいのようです。 この書籍の中で語られていますが、後に国内消尽問題に関する重要判例となる「インクタンクリサイクル事件 *1 」 の特許出願・権利行使の経緯を知ることができます。
特許庁 行政年次報告書
特許庁が毎年7月中旬~下旬頃に公開している報告書です。時事問題として、この中から1問程度出題されることが多いです。 頻出論点は、各国の特許出願趨勢のグラフの国名穴埋め問題、施策に関する動向あたりです。 公表と出題年の問題作成時期のタイムラグがあるため、過去3~4年分くらいは見る必要があるかもしれません。 ですが、この大量の文書から、45問中の1問を当てるために理解・記憶するのは、個人的にはほぼ無理ではないかと思っています。 なので、自分は出題されても捨て問として諦めて、他を手堅く狙う方針で割り切りました。
知財実務オンライン(YouTube)
有識者、その道の専門家による、無料の対談・セッション形式の動画です。 知財戦略に関わらず、1級範囲全般に関わる様々な最新トピックを扱っており、かなり実務よりの内容です。 時間の関係でいくつかのコマだけ厳選して視聴しましたが、苦手分野のテーマがあれば、見てみたらよいかと思います。
その他各論
総合的に扱っていない個々のトピックは、Googleで検索して参考になる論稿や報告書をかき集めました。 1つ1つ解説すると大変なので記載しませんが、タイトルを掲載しておきます。検索エンジンで、PDF等が読めると思います。 特許庁や関連団体・行政機関が出しているものが多いでしょうか。 こちらも大量にありますので、過去問で解けなかった苦手なテーマの参考として見てみてください。
一歩先を行く国内外ベンチャー企業の知的財産戦略事例集
経営における知的財産戦略事例集
経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】
経営デザインシート
知財のビジネス価値評価検討タスクフォース報告書~経営をデザインする~
経営戦略に資する知財情報分析・活用に関する調査研究の概要
経営戦略に資する知財情報分析・活用に関する調査研究報告書
知財スキル標準(本体カード)
標準化実務入門
今回の終わりに
書いてみて改めて、本当に勉強が難しい領域だと思いました。しかし、このテーマは弁理士試験でも扱ってない、当事者知財実務の分野であり、1級の資格取得者が今後本領を発揮することを期待されている部分だと思われ、毎年手を変え品を変え、様々な出題がされています。一気にやるというよりは、時間をかけてでもよいので、少しずつ手持ちの範囲を広げていく感じで対応するのが良いかと思います。 特許庁の刊行物は毎年テーマを変えて出ているので、特許庁のサイトリンクを活用するとよいと思います。
次回のテーマは「実務よりの分野」について記載する予定です。